置き去りにされた娘
今日は本当なら 新宿でひこの代表作の映画
「ワンナイト・イン・モンコック」を見ているところでした
せめて DVD鑑賞でもしようと 思ったのに
日ごろのいい加減な生活態度が如実に表れて
何と 中身が入っていませんでした 
最後に見た時に 中身を別のところにちょっと仕舞ったのでしょう
探し出すには 少々時間がかかる為今回は諦めました 

少し前に ひとつのDVDを見ました
普通の中国映画だと思って借りてきました
何しろ 老眼なので 裏の小さな作品説明など読めないのです
『延安の娘』という題に惹かれたのです

更に少し前に 小田 空 さんの『中国いかがですか?』と云う
エッセイ漫画を読みました 
その中に出て来た延安の暮らしが余りにも凄まじかったのです
あっ勿論 小田さんはそんな延安をも楽しんで暮していらしたけれど
今も尚続く「黄土高原」の過酷な生活を それで知ったのです

そんな事もあり 思わず手にとってしまった『延安の娘』でしたが
本当に素晴らしい作品で 久しぶりにレビューを書こうと思います

en.jpg

『延安の娘』 HPはこちら

監督 池谷 薫

出演 何 海霞(フー・ハイシア)  王 露成(ワン・ルーチョル、海霞の実の父)  
黄 玉嶺(ホアン・ユイリン) 趙 国棟(チャオ・グオトン、黄玉嶺の同級生)  
 
「聖地に置き去りにされた娘は
それでも一目 実の親に逢いたかった」

「黄土高原が果てしなくつづく「中国革命の聖地」延安。
貧しい農村の娘・海霞(ハイシア)は、
生まれてすぐに自分を棄てた実の親を捜していた。
彼女の両親は、文化大革命の時代、
毛沢東の指令によって北京から下放された紅衛兵だった。
「私は、なぜ生まれ、棄てられたのか?」。
彼女の激しい思いが引き金となり、
かつての紅衛兵たちの間に忌まわしい記憶がよみがえる。
その一人、海霞の親探しに奔走する黄玉嶺(ホアン・ユイリン)には、
拭い去ることのできない痛ましい過去があった。
実は彼にも海霞と同じような境遇の子ができていたのだ。
しかし、恋愛さえ御法度という時代の中、
彼には<反革命罪>が宣告され、相手の女性は中絶させられた。
30年の封印を解き、海霞と黄玉嶺は真実を明らかにする旅にでる」
(「延安の娘」作品紹介より)

この作品は 『蟻の兵隊』の池谷薫の初監督作であり
NHKのハイビジョンのために制作されたドキュメンタリーでした
2年間という長い時間をかけて 出演者達との間に信頼関係を築き
人物の複雑に揺れる心理を 見事に描き出しているのです
「文化大革命というのは一体何だったのか」
「下放という政策の目的は一体何だったのか」

1966年 10代半ばの青少年で組織された紅衛兵を扇動し
毛沢東は文化大革命を起こしました
そして2年後の1968年 
毛沢東は 全国の都市の若者に下放を命じたのです
文革は 1976年の四人組逮捕により終焉を迎えるまで
10年にわたって中国を政治混乱に陥れ 吹き荒れた嵐でした

当時高校生だった私は 隣の中国で毛沢東と紅衛兵が 
何かしらやっていた事は知っていましたが
それが一体どんな事なのかまでは知りませんでした
紅衛兵が常に携帯し 文化大革命の象徴となった毛語録を
赤い表紙のその本を 男子学生たちは良く読んでいました
どちらかと言えば 当時 文革は賞賛されていました
でも私は アメリカのベトナム戦争反対を叫んでいました
中国の事には 関心のないありきたりの女子学生だったのです

ひこに導かれてから 中国映画を多く見るようになって
改めて 文革の影響をより強く知らされたのでした

この作品の底辺にあるのは 文革の下放政策により
人生を狂わせられた人々の 強い思いなのです

一番大事な時代の教育の機会を 文革によって奪われ
青春を下放で塗りつぶされた元紅衛兵たちは
改革開放政策により経済成長を遂げた現在の中国において
知識階級に無い彼らは まっさきにリストラの対象にされて 
社会の弱者に転落している者が多いのです

黄土高原の貧しい村で 生まれて直ぐに養女として捨てられ
養家に男の子が生まれてからは ただ労働力としてのみの扱いで
小学校にも満足に通わせてもらえず 働かされてきた主人公ハイシアは

自分の意思は関係なく 養父母の思惑で結婚させられますが
幸い優しい夫と上手くいき 嫁ぎ先で跡継ぎの男児を産み
ようやく「一人前」として 意見が言えるようになった時
長年胸に秘めてきた実の両親への追慕を 口に出す事が出来たのです

実の両親を探そうとするハイシア そんな彼女に協力するのは
かつてハイシアの両親と同じく 北京から下放されたユイリンでした

下放の学生たちには 男女間の恋愛は許されていなかったのですが
しかし下放時に 同級生と恋愛関係になった彼は 
妊娠した彼女は中絶させられ 自分は反革命罪として
強制労働改造所に送られた過去があったのです
こういう過去があったから余計に ハイシアのことが気にかかり
なんとか実父を会わせてやりたいと思っているようです

ユイリンは 北京に住むハイシアの実の父親のルーチョルを探し出し
二人を遭わせようとするのですが。。。

このハイシアと 彼女の実の父親のルーチョル
ハイシアの親探しに奔走すユイリンの3人を中心に
2002年に2年間に渡って 彼らに密着して
彼らを取り巻くそれぞれの立場の人々のインタビューも交えて
撮影されたドキュメンタリー作品が「延安の娘」です
すべてが現地でのロケによって編まれたものです

ナレーションも無し 当人たちの発言だけで全編を構成して
彼らの表情を淡々と写しているのです

最初は わたしは正直 ハイシアは年の割りに皺の多い
何処から見ても 綺麗とは言えない田舎娘だし
父親に至っては 何とも情け無い男で こんなDVD借りたのは
間違いだったなぁ。。。と思った位に つまらない作品に見えたのです

しかし 横になって見ていた私は 何時しか起き上がり 
画面を食い入る様に見つめていたのです 
作り物でない 生身の人間からのみ放たれる強い想いが
見る者を捉えて離さないのです 父親の涙に胸を熱くしていました

父親はまともに生活できてない自分の身を恥じて 会おうとしないのです
なぜ今になって 忘れようと努力している出来事を蒸し返すのか

最初 娘の写真を見せられた時

「会いたくない。。。」

「こんな俺にあっても。。。」

暗い表情ばかりを見せていた父親です

訪れる30年ぶりの再会
北京に向かうハイシアは 小さな子供の様に見えます

北京の父親は なんと娘が来てもぼんやりと。。。

上半身裸のままで 下着姿で立っています

本当にただぼんやりと。。。なす術もなく

「元気だったかい?」と娘に声をかけるでもなく

ただ呆然としているように見えました

でもだからこそなおのこと この「再会」に胸が震えるのでした 

「俺みたいなものに会ってもしかたがないだろう

娘になにもしてやれないのだから

せめて餃子をごちそうしてやることくらいしか」

なんて真実の想いが溢れた言葉なのでしょう

ハイシアの「気にかけてくれる人が欲しい」と想う気持ち
なんて哀しく心揺さぶられる気持ちでしょう

彼女の「父親に会いたい」という情熱が周囲の人を動かし
彼女を取り巻く人々 養父母 義父母 夫 義姉
最初呆れ 反対している彼らが 場面が進むにつれて変わっていき
遠く離れて会うはずの無かった父親に 会いに行く力を作るのです 

娘が延安から 自分を訪ねてくれたことによって
変わってゆく父親の様子は 鮮やかに伝わってきます

彼を変えたのは 自分を本当に必要としている娘の存在を知った
ことが大きなきっかけだったと思います

誰かを心の底から想う気持ちは周りに伝わり 伝えられた
その人までも 変えてしまうほどの大きな力を持っているのです

しかし この作品は ハイシアのストーリーだけではないのです

映画の終盤 親探しを手伝うユイリンの独白が胸をしめつけます
人間としての尊厳を傷つけられることの苦しみは 
どれ程年月が経っても消えることが無く どれほど深いものか
この場面は 圧巻であり この作品に更に重みを加えています

それは いまの中国で「忘れられた人たち」の叫びであり
下放の真実を訴え 文革で傷つけられた名誉回復を求める声であり
今尚 下放された元紅衛兵たちの心に深く楔となってあるのでしょう

歴史のうねりに翻弄され続けて
流した涙も汗も一向に 報われない人たちがいるのです
彼らの歴史を忘れてはいけないのです

荒涼とした黄土高原の砂煙の中で必死に生きている人々がいる
恵まれた環境にある自分が 何の不平不満なんだと
頬を殴られる様な強い衝撃をうけた作品でした

この素晴らしいドキュメントを作った監督の
インタビューを最後に載せておきます




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【2008/11/17 22:42 】
色々映画の話 | コメント(16) | トラックバック(0)
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コメント
usakoさんの力作を読んだら、このドキュメンタリーを見たくなりました。
監督の「蟻の兵隊」を最近見て感動したぱかりでした。

もうすっかり何時ものusakoさんに戻って、語って下さったので安心しました。

【2008/11/18 07:36】
| URL | ちほ #PJakg2V.[ 編集] |
こーいう作品があること知りませんでした。
下放と言えば、イエ君の『小さな中国のお針子』や
『美人草』を思い浮かべる邪なPです^^;

国営放送で放映されたのかな~?
このタイトル、心の中に留めておきます。
【2008/11/18 10:12】
| URL | パブロ・あいまーる #iU4puUNs[ 編集] |
usakoさん、おはようございます☆

熱い思いのこもったレビューですね。
こちらの田舎町のレンタル屋にあるか分かりませんが、
見てみたいと思いました。
【2008/11/18 11:13】
| URL | nabi #FcZfbeYc[ 編集] |
ちほさん こんにちは

「蟻の兵隊」まだ見てないのですが
とても素晴らしい作品のようですね

はいもうひこショックからは立ち直っていますよ
どうぞ ご安心下さい

【2008/11/18 13:17】
| URL | usako #p3fscdUQ[ 編集] |
Pさん こんにちは

私も「下放」というと 『小さな中国のお針子』を思い浮かべます
「シュウシュウの季節」は辛かったですね

この作品の辛さは 作り物でない事実だという ところにありますね
とても打ちのめされて 少しづつ書き溜めてきたものです

心の片隅にでも留めておいてください

【2008/11/18 13:23】
| URL | usako #p3fscdUQ[ 編集] |
nabiさん こんにちは

何処にでもおいてあるメジャーに作品ではありませんが
もしも有りましたら ぜひごらんになって下さい

こんな事があったのだと知る事は大切だと思います

【2008/11/18 13:26】
| URL | usako #p3fscdUQ[ 編集] |
私も見ました。
素晴らしいドキュメンタリーだと思いました。
日本人監督とスタッフによるものとは、最後に知って驚きました。
それほど出演している人たちが、自然でした。
素敵な感想ありがとうございました。
【2008/11/18 15:34】
| URL | 愛弓 #N6Kr82zQ[ 編集] |
愛弓さん こんばんは
 
本当に心魅かれる作品でしたね

美しい男好みの私が この父親や 
小父さんたちに 胸鷲掴みにされるなんて(爆)



【2008/11/18 21:27】
| URL | usako #dN1wHbUA[ 編集] |
ウサコさん、こんにちは!いつも有難うございます。
私もレビューを読んで、とても見たくなりました!
田舎のツ〇ヤには無いかもしれませんが、、。
最近は韓流ばかり見ていましたが、崋流?にも興味がわいてきそうです。
香港を含め中国にも行ってみたくなりそう!
【2008/11/19 11:09】
| URL | しばみ #-[ 編集] |
USAKOさんのセンサー、すごいですね。
あたしも、こういう作品があったの、知りませんでした。

いろんな角度から様々なものを見てると、
一つの作品もいろんな感じ方ができますよね。

チェック、してみます。
【2008/11/19 16:44】
| URL | やっほー #-[ 編集] |
見てみます、これ。

文革。紅衛兵。毛沢東。下放。

中国現代史では決して忘れてはならない、事実。
小学校の社会の教科書には少しだけ文革関連のことも持っていたし、
学生時代、いろんな文献も読みました。
日本にいるからこそ知ることができるんでしょう。
いま中国ではどように評価されているのでしょうか。
【2008/11/19 17:49】
| URL | るおさん #-[ 編集] |
しばみさん こんばんは

是非 ご覧になって下さい 
多分まだ新作コーナー辺りにあるかと
新作洋画コーナーに私の近くの店はありました
韓流も結構好きな作品がありますが 
中国のものは 独特の悠久のロマンがあります
色々問題はあっても やはり魅力的な国ですね

【2008/11/19 21:02】
| URL | usako #dN1wHbUA[ 編集] |
やっほーさん こんばんは

たまにはこんな風な真実の声に耳を傾けるのも良いかなと

ここに描かれているのは一面の真実に過ぎないのですが

老紅軍の老人たちも達観してて とても魅力的です
こんな人が今もいるんだ~ってびっくり

是非見て下さいね

【2008/11/19 21:09】
| URL | usako #dN1wHbUA[ 編集] |
るおさん こんばんは

今尚 文革の問題は中国ではタブーでしょうね
この作品も勿論中国では上映されません
本来 かれらにこそ見てもらいたいのですが

監督の言葉ではないけれど
日本人 外の国の人だから 撮れた映像でしょうね

【2008/11/19 21:12】
| URL | usako #dN1wHbUA[ 編集] |
usakoさん
私も是非観てみたい作品です☆
〇UTAYAにはあるでしょうか・・・
探してみますね!
最近はゆっくりと映画を観る時間が減ってきてしまいましたが、
またオススメ作品があるときは教えて下さいませ☆
【2008/11/20 03:07】
| URL | yuki #-[ 編集] |
yukiさん
大手レンタルショップだからあると思います

最近「蟻の兵隊」で注目浴びて そのおまけみたいにDVD化してます
どんな理由でも これが世に出て嬉しいです

全く私的な意見ですが またお気に入り見つけたら載せますね


【2008/11/20 19:36】
| URL | usako #dN1wHbUA[ 編集] |
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